まちの薬局つれづれ日記 白澤薬局(兵庫県)vol.1

日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。今回から class A 薬局の仲間で、白澤薬局段上店(兵庫県西宮市)薬剤師の金光伴訓さんがお届けします。


『浮世床』

皆さま、こんにちは。今回からこのコラムを執筆する、白澤(はくたく)薬局の金光(かなみつ)です。

お引き受けするにあたって、今までこのコーナーを担当された方々の記事を読み返してみました。まあ、なんとも味のある文章。鋭い切り口。そのようなコラムが私に書けるのかなあと不安ばかりなのですが、今、気になっていることを、私の趣味を通してお話しさせていただこうと思います。拙い文章ではありますが、暫くお付き合いください。

趣味の一つに落語鑑賞があります。明るい上方落語も好きなのですが、人情噺の多い江戸落語により心が動きます。「まくら」と呼ばれる噺にも、胸が熱くなるものがあります。特に今は亡き柳家小三治さんの「あの人とっても困るのよ」は切ない気持ちでいっぱいになりました(YouTubeにアップされているので、ぜひ聴いてみてください)。

噺の一つに「浮世床」があります。江戸時代の髪結い床は町内の男たちの溜まり場で、一日中無駄話をして楽しんでいた、その床屋の喧騒を描いたお話です。

私が以前通っていた理髪店も、父と私、親子二代が通う街の床屋で、店の主人からは

「お父さん、男前やね」

「うん、この間若い時の写真みたら、ジュリーみたいで驚いた」

「君はお母さん似か」

「………」

そんな無駄話が客ごとに交わされる、地域の交流の場でした。しかし、主人の高齢化とともに、個人経営の街の床屋が姿を消している現実があります。

地域包括ケアが目指す「高齢者が住み慣れた地域で、その有する能力に応じて、自立した日常生活を人生の最期まで送る」ためには、医療や介護に関わる人ばかりでなく、同じ地域で暮らす住民の支え合いが必要です。それには、住民同士が互いに知り合い、助け合うための語り場が不可欠です。

今、街の中で自由に訪れることのできる薬局こそ、他の職種にはない、地域住民が集う語り場になる資質があります。

そのために何をしてるかって? それは次回までのお楽しみということで……。


text by 金光伴訓(かなみつ・とものり)

経済学部社会政策科卒。一般企業企画開発室を経て、薬学部へ社会人入学。在宅医療に取り組む中、社会福祉審議会で福祉医療計画策定に取り組んでいる。趣味は、映画・演劇・落語からラグビー・合気道と幅広い。