80歳になったとき、元々ある28本のうち20本以上、自分の歯を残すことを目標に掲げた「8020運動」がスタートしたのは1989年。当初は1割にも満たなかった達成率が最新の調査結果では5割以上に。一方で注意すべきこともあります。
残歯が多いことで高齢者のむし歯が増加中
歯が20本あれば、たいていの物を噛むことができ、食べ物は飲み込みやすい小さな塊になりやすく、誤嚥を防ぐことができます。また、噛むことで分泌が促される唾液には、消化を助けたり、口の中を潤したりして衛生的に保つ働きがあります。さらに、さまざまな食べ物を食べられることは大きな楽しみをもたらします。
歯を残すには、若いときから毎日の丁寧な歯みがきが欠かせません。歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目に歯ブラシの先を当てて細かく動かします。フッ素入りの歯磨き剤や歯間ブラシ、デンタルフロスなどを使用するのもよい方法です。しかし、毎日のケアだけでは、どうしてもプラークや歯石が残ってしまいます。これらを放置すると歯周病やむし歯を招き、歯を失いかねません。特に高齢者で問題になっているのが、年々むし歯が増えていることです。皮肉なことに、残った歯が増えたことが一因で、むし歯になる人が増えたといわれています。歯周病やむし歯を防ぐには、歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケアを定期的に受けましょう。
入れ歯は歯ブラシと洗浄剤で清潔に
80歳時に半数以上の人に20本以上の歯が残っているとはいえ、多くの人は年齢が上がるにつれ1本、また1本と失っていきます。このとき重要なのは、失ったままの状態にせず、入れ歯を使って食べ物を噛む力を維持することです。
入れ歯は清潔にしておかないと、義歯性口内炎や誤嚥性肺炎を引き起こしたり、入れ歯の隣の自分の歯がむし歯や歯周病になって失われる恐れがあります。入れ歯はこまめに洗浄しましょう。
まず入れ歯を外して、流水にあてながら入れ歯用洗浄ブラシでやさしくこすります。このとき決して力を入れすぎないこと。入れ歯はとても繊細で壊れることがあるからです。また就寝前は、ブラシで手入れしたあと、洗浄剤に浸けておきましょう。洗浄剤に浸けることで口内細菌を減らすことができます。ただし、毎日続けないと十分な効果は得られません。この二つを毎日の日課にしましょう。
自宅などで歯科診療を受けられる「訪問歯科診療」
寝たきりになっても口腔ケアは大切です。口腔内が汚くなると細菌が増え、歯周病やむし歯だけでなく、誤嚥性肺炎の危険が高まります。本人が一人で歯磨きをするのが難しいときは、家族など周りの人がサポートしましょう。併せてプロフェッショナルケアを受けることも大切です。歯科医師や歯科衛生士が自宅や介護施設などを訪問し、プロフェッショナルケアや歯科診療、飲み込みなどのリハビリを行う「訪問歯科診療」という医療サービスがあります。地元の歯科医師会やケアマネジャー、訪問看護師などに相談するとよいでしょう。なお、口腔ケアや入れ歯の手入れなど、わからないことがあるときは薬局の薬剤師に気軽にご相談ください。
イラストレーション:堺直子
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