まちの薬局つれづれ日記 白澤薬局(兵庫県)vol.2

日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。class A 薬局の仲間で、白澤薬局段上店(兵庫県西宮市)薬剤師の金光伴訓さんがお届けします。


『木挽町のあだ討ち』

私の趣味の一つに読書があります。特に今お薦めしたいのが、本年度上半期の直木賞に選ばれた永井紗耶子の時代小説、『木挽町(こびきちょう)のあだ討ち』です。

現在の東京、東銀座にあたる地域は、江戸時代木挽町と呼ばれ、今も歌舞伎座や新橋演舞場があるように、昔も中村座をはじめ、幾つもの芝居小屋が並んでいたそうです。

物語は、その芝居小屋の前で雪の降る中、多くの人の前で果たされたあだ討ちの真相を、一人の若侍が、あだ討ちを見た芝居小屋の裏方たちの証言からつまびらかにしていくというお話です。

時代小説というと、武士の物語や歴史小説が思い浮かばれがちですが、この作品は芝居小屋に集まる武士や町人など、多種多様な市井の人々を描き、窮屈な社会を不器用ながら生き抜こうとする人々の姿を、「あだ討ち」を通して鮮やかに描いています。

私の薬局の待合にはこの作品をはじめ、自分の蔵書を並べた小さな本棚「まちライブラリー」があります。スマホで本が読める現代、書籍離れが着実に進み、地元にあった街の本屋さんは次々に姿を消しています。一方、公民館や図書館で行われる本の貸し出しでは、一冊の本を借りるのに何十人も、何カ月も待たなければならない現実があります。

それを少しでも解消し、街の住民に少しでも本の楽しさを伝えたい。そんな願いから始めた「まちライブラリー」は、本をきっかけに、薬とは関係なく訪れる人の交流の場となり、郷土の文化財保存会などとのたくさんの繋がりも生まれるようになりました。

経営学者で、「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・ドラッカーは、企業の第一の目的は「顧客を創造すること」と話しています。来局する患者さんの満足を追うだけでなく、新たに薬局を訪れる人をつくる。

今夏、猛暑の際における外出先の一時避難所として、暑さをしのげる涼しい空間(クールオアシス)を提供した薬局もありました。

医療以外でも地域住民を支えることは、薬局の未来をつくることに繋がると思います。


text by 金光伴訓(かなみつ・とものり)

経済学部社会政策科卒。一般企業企画開発室を経て、薬学部へ社会人入学。在宅医療に取り組む中、社会福祉審議会で福祉医療計画策定に取り組んでいる。趣味は、映画・演劇・落語からラグビー・合気道と幅広い。