日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。class A 薬局の仲間で、白澤薬局段上店(兵庫県西宮市)薬剤師の金光伴訓さんがお届けします。
『京の町家の「鍾馗(しょうき)さん」』
外国人旅行者や観光客で賑わう京都。有名な神社仏閣や繁華街を離れて住宅街に足を向けると、急に人通りが減ってきます。ゆっくりと歩きながら、町屋の一階の屋根をふと見上げると、何やら瓦で作った人形が壁に取り付けられています。
平安時代、さまざまな災いは妖怪や鬼によってもたらされると考えられていました。神社仏閣や裕福な家では、その鬼達が侵入しないように屋根に鬼瓦を据え、悪鬼を跳ね返していました。ある時、三条の薬屋が鬼瓦を取り付けたところ、向かいの家の女房が寝込んでしまい、家人は鬼瓦を取り外してほしいと頼んだが断られたそうです。
そこで中国の故事に倣い、鬼を退治した「鍾馗さん」を模した人形を瓦屋に作らせ、屋根の上に載せたところ、女房の病気が全快しました。これが京の庶民の間に広まり、鍾馗さんをこぞって屋根の上に載せたそうです。
また鍾馗さんを向かい合わせにして、跳ね返す鬼が他家に侵入しないよう、町屋の鍾馗さんは少し身体を斜めに設置されています。
"千年の都"京都に住む"京都人"には、今もそのような風習が続いています。
同様に、伊勢神宮の周りの家々には、玄関先に"笑門"と書かれたしめ縄(笑門飾り)が一年中飾られています。これは旅の途中で宿を乞うた神(須佐之男命)を歓待した「蘇民将来」に、神が感謝として、蘇民将来とその子孫を一生災厄から逃れるように取り計らったという故事から、「蘇民将来の子孫の家門」であることを「笑門」と短縮してしめ縄とともに掲げ、無病息災を願って飾られているそうです。
それぞれの地域には、そこに住む人々の独自な風習や考え方があります。それ故、住民が求める価値も、時には地域によって異なる場合があります。
医療が提供するサービスには、国が規定するものが数多くあり、地域医療・地域包括ケアでさえ、そのような規定が見受けられます。しかし国や企業が考える価値と、地域住民にとっての価値は現実には同じではありません。それぞれの地域で、個々の住民が求める価値を見出すこと。地域に根差す医療とは、それが原点ではないでしょうか。
text by 金光伴訓(かなみつ・とものり)
経済学部社会政策科卒。一般企業企画開発室を経て、薬学部へ社会人入学。在宅医療に取り組む中、社会福祉審議会で福祉医療計画策定に取り組んでいる。趣味は、映画・演劇・落語からラグビー・合気道と幅広い。
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