日常の中で感じるあんなこと、こんなこと。class A 薬局の仲間で、白澤薬局段上店(兵庫県西宮市)薬剤師の金光伴訓さんがお届けします。
『囚人のジレンマ』
経済行動の重要な問題には、市場メカニズムだけでは説明できないものがあります。それは、そこにかかわる人間の駆け引きがあるからです。その駆け引きを数理モデルで研究し、「他人や自分の行動がどうであれば一番利益が出るか?自分がどうするのが最適か?」を考える学問として「ゲーム理論」ができました。
具体的研究事例の一つに「囚人のジレンマPrisoners’Dilemma」があります。一緒に犯罪を犯して捕まった2人の囚人に、取調官が別々に次のような条件を提示します。
「二人とも黙秘なら懲役2年になる。」
「お前が自白して相手が黙秘なら、お前は捜査協力者として釈放で、相手は懲役10年だ。」
「相手が自白してお前が黙秘なら、相手が釈放で、お前は懲役10年だ。」
「二人とも罪を認めたら、二人とも懲役5年だ。」
ここで黙秘を“協調”とし、自白を“裏切り”とすると、二人の“全体”の最大利益は“協調”して黙秘することです。そうすれば懲役は2年ですみます。
しかし、“裏切って”自白し、相手が黙秘していれば釈放されます。逆に相手が“裏切って”自白し、自分が黙秘していると10年の懲役になりますが、自分も“裏切って”自白すれば、5年ですむことになります。
かくして二人とも自白、“裏切り”するほうが有利と考え実行し、5年の懲役となります。自己の利益の最大化のために“最適な選択”をしても、実際に得た全体の利益は低い。それ故「囚人はジレンマ」に陥るのです。
現実の市場について考えると、同じ商品を販売するライバル企業において、互いに同じ価格をつけて市場を分け合えば、双方必要とする利益が得られますが、自社の利益の最大化のためにシェアを増やそうと価格を下げると、互いに値下げ競争がおこり、双方の利益が下がり続けることになります。
「囚人のジレンマ」とは、自己の利益だけを追求すると、全体にとっての合理的で公平な結果が得られないことを意味します。裏切ることで短期的に得られる利益よりも、協調関係が崩れることにより将来の損失が大きくなることを、私たちは覚えておかなければなりません。
text by 金光伴訓(かなみつ・とものり)
経済学部社会政策科卒。一般企業企画開発室を経て、薬学部へ社会人入学。在宅医療に取り組む中、社会福祉審議会で福祉医療計画策定に取り組んでいる。趣味は、映画・演劇・落語からラグビー・合気道と幅広い。
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