何度行っても新しい発見がある〈一保堂茶舖 京都本店 ー京都・中京区ー〉

畳一畳分はあろうかという大きな暖簾が4垂、風に揺れている。江戸時代から続くこちらのお茶は広く親しまれ、店舗やデパートでの取り扱いは国内だけでも約150箇所。家業を継いでからのコロナ禍や、抹茶ブームなどの荒波にもまれながらも、会社を一つの船として、その船長を自然体で引き受ける七代目当主、渡辺正一さんにお話を伺った。


暖簾をくぐってすぐのカウンターでは、揃いの白い三角巾をした清潔感ある売り子さんたちがテキパキとお客さんを案内する。今や海外でもIPPODOといえば日本茶と認識されるほど、ブランドとして確立された感があるが、渡辺さんは「あくまでも町のお茶屋さん」と話す。「(袋入りの)お番茶1本」など、日々のお買い物にはできるだけスピーディに気持ちよく帰っていただくことを優先し、初めてのお客様には、どんなお好みか、何を目的に来られたのかをお聞きしながら、カジュアルすぎず、親しみやすさを心がけている。そのためには、「お客様も私たちも自然体でいられるような接客や、見せ方をしていきましょうと話しています」


「お茶は見ただけでは分かりづらい商品ですし、なおかつ、お客様の手元で作業していただかないといけない半完成品」。だからこそ、楽しみ方をお伝えする場所として、人が集まる街(京都本店と青山店)で、喫茶スペースを設けている。コンセプトは「繰り返しお越しいただいても飽きない」こと。しつらえや接客、メニューなどで、何度行っても新しい発見があることを目指した。


京都本店の喫茶室「嘉木(かぼく)」には、「奥の間」、そして「カウンター席」、寺町通を望む「寺町の間」と、趣の違う3つの空間がある。季節や時間、座る場所によって、光の変化で見え方が変わるよう、壁面のタイルや天井に意匠をこらした。またかつては、お茶はお客様ご自身に淹れていただくスタイルのみだったが、プロの味も楽しみたいとの声が多く、今は、一煎目はスタッフが淹れ方をご紹介しながら淹れたお茶をお出しして、二煎目以降はご自身で淹れていただくなど、ご希望に応じている。筆者も身に覚えがあるが、お茶は身近すぎるせいか、普段適当に淹れて飲んでいるからこそ、本当の淹れ方を知りたいと思う。いつもはデパートの店舗で買っているお客様が、京都旅行のついでに喫茶室に寄ってくださることも多い。とはいえ、お茶の味は、茶葉の質はもとより、茶葉の量、湯の温度と量、浸す時間の組み合わせでいかようにも変わる。だから正解はない。同じように淹れても味にばらつきがあることも含めて楽しめる。翻ってみれば、どんなお茶も工夫次第で好みの味に近づけることができる。


ところで、お茶屋さんと一口に言ってもお店ごとにさまざま。自分の畑を持っているお店も中にはあるが、茶畑で採れる茶葉の量は限られているので、完全に一気通貫で手がけているところは少ないそう。それで、業界には大きく3つの商売の形態がある。1つは、茶畑でお茶を作る生産者、2つ目は問屋、そして、3つ目が「我々のいる流通・小売」と渡辺さん。「この業界で面白いのは、それぞれにメーカー機能があることなんです」。例えば、同じ畑からお茶を仕入れても、問屋Aと問屋Bでは仕上がりが違う。それは、農家で作られたお茶を、茎、葉、粉の部分に分別し、傷まないように乾燥させるなどの工程を問屋が行うので、その問屋独特の風合いが生まれるから。それを流通・小売でそのまま売るケースもあるが、一保堂のようにブレンドしたり、焙煎したり、様々な加工を施すことで、その店らしい味わいを生み出すことができる。


一保堂では、ほうじ茶や番茶、煎茶など約30種類のお茶を全て、当主自らが合組(ブレンド)している。渡辺さんも入社して7〜8年は、ずっと父である先代の合組を見て学んだ。まず、問屋が持ってくるお茶の見本を見て、産地独特の風味が感じられるかどうかをチェックすることから始まる。例えば、見た目が粉っぽかったり、ガシガシしていたりすることでも分かるし、実際に飲んで、味わいや色でも判断する。そして、それぞれをブレンドしていく。


お茶も一服、薬も一服。禅僧が、瞑想の集中力を高めるなどの効能のある良薬として伝えたとされるお茶。お茶は自然そのものであり、特に抹茶は茶殻が出ない。毎朝キッチンで抹茶をいただくという渡辺さん。300年来、世の中に必要とされ続けてきた家には「家訓がないのが家訓」と言う。過去に縛られず時代に沿ったしなやかさで、「それやってて続くんか」と問いながら、次の代へ繋ぐ継続を考える。


一保堂のお品書きやパッケージの筆文字は、渡辺さんのお母様である都さんの手によるもの。その字には、お茶を作る人や、お茶を飲む人、お茶に関わるすべてを「よきかな」と肯定するものがある。お茶一服を味わえる日々が続くことを心から願う。

(写真と文 篠田英美)


一保堂茶舖 京都本店

京都市中京区寺町通二条上ル常盤木町52

営業:10時〜17時  定休日:第2水曜日