2023年1月、ここDOROTHY VACANCE Shopではオートクチュールの子ども服ブランド「トゥドゥ・コム・アナニョ」(仏語で「子羊みたいにモフモフ」の意)春夏コレクションの展示会が始まった。今季のテーマは「秘密の花園/My Secret Garden」。「どこかに秘密を持ちたくて」という、あるお子さまのキュンとする一言や、かつて学校の上映会で観た映画「秘密の花園」(1993年、アニエスカ・ホランド監督)にインスピレーションを得た。ショップ店内が毎回テーマに沿って様変わりするのも楽しみの一つ。「場所があるからこそ、予期せぬことが起こるのがお店の良いところ」と、自分色にお店作りを楽しんでいる、オーナーで「お針子」のGON!さんにお話を伺った。
お店はJR京浜東北線の大森駅と東急池上線の池上駅を結ぶ池上通りの、ちょうど中間辺りの路地を入ったところにある。住宅街にポップなピンク色のひさしが現れ、店内に入るとエキゾチックさと優雅さが同居する世界観で、懐かしいテーマパークに迷い込んだよう。
そもそもなぜお店を持とうと思ったのか。東京目黒の杉野服飾大学を卒業し、在学中からしていたスタイリングの仕事と、洋服のオーダーメイドの仕事、インターンで働いていたギャラリーの仕事の3つで食べていこうと思っていたGON!さん。ひょんなことから、男性のワイシャツは襟やカフスが汚れると廃棄になってしまうことを知り、もったいないとワイシャツの古着をひたすら集め、襟を取って前後ろを逆にし、リメイクして女性もののブラウスを作り始めた。作っては、一人暮らしの部屋のキッチンにラックを並べて販売。やがて原宿のキャットストリートのセレクトショップで扱われるようになったが、奇抜すぎるものは置いてもらえず、自分の好きなように物事を決められないことがもどかしく、さらに、来日して物作りをしている友人のアバンギャルドな作品なども置いて販売できる場所を探し始めた。
そんな折、好きなデザイナーの展示を見に訪れたのが、現ショップの前身のギャラリー。初対面のGON!さんに前オーナーが、「次、お店をここでやらない?」と声をかけ、GON!さんも「やります!」と二つ返事で答えたという。人生には時々こういうことがある。お店の立地についてGON!さんは、「既に面白い原宿や表参道ではなく、わざわざ(足を運んでいただく)感」があり、「なんでこんなところにこんなお店が!?」という場所の方がときめくかなと思ったそう。
お店のスタートは2011年4月。最初は友人の作ったアクセサリーや、ワイシャツのリメイクのオーダーを受けていた。マーケティングは特にせず、お客さまは同年代くらいかなと思っていたら、「お店って不思議なもので」、赤ちゃんから80歳近い方まで幅広い年齢の方に興味を持っていただいた。
お店のテーマは「ハッピーカオス」。色々なものが混ざり合って、色々な人に楽しんでいただけたらとの思いだった。月に一度ギャラリーとして作家さんに展示をしてもらったり、夏休みには、お店のものを全部どけて、絵本ロックバンド「虹艶Bunny(にじいろばにー)」さんに、歌ありギターありの演劇をやってもらったり(ご自身は裏方で照明を。まさかここが劇場になるとは思っていなかったそう!)。ある時はヨガの先生が自作のアクセサリーを売りつつヨガをしたり、近所のマダガスカルのマダムが籠や鞄、カメレオン人形などを販売するマルシェをしたり、「混沌が面白かった」。その度にディスプレイを考え、「面白いと思ったことはやろうと思えばできるのが、すごく楽しいと思いました」とGON!さん。
やがて、子ども服ブランドが2016年にスタート。子ども服をやろうとは露ほども思っていなかったが、小学校の家庭科班で一緒だった親友に子どもが生まれ、一緒に夜なべして子ども服作りをしているうちに口コミから広がり、今ではワンシーズンに約150着のオーダーが入るようになった。「子ども服なので、子どもの未来にプラスになることをやりたい」とGON!さん。「作ったものがゴミにならないように、できるだけ長く大事に受け継いでもらえるものづくりを」と、胸まわりを大きめに、裾には5センチの丈上げをつけ、最低2年は着られるようにして、お直しも受け付けている。「何でも初体験が基準になると思うので、子どもの五感が育まれる時に良いものを身につけることで、子どもたちが自分の好みに気付いたり、価値観や美意識を養ってもらえたら」
子ども服を始める時に思い出したのは、ご自身の一番古い記憶だという。生後まだ7カ月くらいの自分が、祖母手作りのギンガムチェックの服を着て窓辺の籐椅子に座り、それを祖父が写真に撮っている。小さい頃のことはあまり覚えていないと思いきや、GON!さんには色々な記憶がお洋服と共にあるそうで、「いいお洋服って記憶に残るんだな」と思ったそう。お客さまの子どもたちにも「いいお洋服体験をプレゼントしたい」という。ちなみに、「祖母は私が生まれた時に、「美貌では生きていけない」と思ったらしく(笑)、手に職をと3歳の頃から針仕事を教えてくれました」とGON!さん。
習うというより遊びの延長で、二人で並んでリカちゃん人形のお洋服を作ったり、編み物をしたり、デパートに行くと子ども服や婦人服から紳士服の売り場まで渡り歩いて、この色はこの色と合わせると粋なのよとセンスを叩き込まれた。若い頃はGON!さんと同じ杉野学園に通っていたお祖母様。お母様も手仕事がお好きで、刺繍の腕前はかなりのもの。手仕事がお好きなのは血筋のよう。また、ブラジルで仕事をしていたお父様に連れられブラジルに行くなど、ホームステイや交換留学でさまざまな国の手工芸を見る機会に恵まれた。今でも南米の色味が好きだという。
部屋の掃除は気にならないのに、縫い代の0.1ミリの塩梅が気になるというGON!さん。あくまでもご自身はデザイナーではなく、お針子だという。なぜなら、子ども服は子どもの体型に寄り添うもので、デザインを前面に出すものではないから。赤ちゃんの頃から毎シーズン来てくれているお子さんは今年6歳になった。「いっそウェディングドレスもお願いします」と言ってくださる方もいるという。幾つになっても美しいGON!さんが、生き生きとドレスを作る姿が目に見えるようだ。
(写真と文 篠田英美)
DOROTHY VACANCE Shop
東京都大田区中央3-2-16 1F TEL/03-6429-8692
営業時間/13:00~18:00 定休日/火・水
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